第618回沖縄大学土曜教養講座「『沖縄戦トラウマ』の理解と『語り合い』の可能性─家族に、地域に、受け継がれた痛みとともに生きる─」が開催されました
第618回沖縄大学土曜教養講座を開催しました
「『沖縄戦トラウマ』の理解と『語り合い』の可能性 ―家族に、地域に、受け継がれた痛みとともに生きる―」
2026年5月23日(土)、沖縄大学アネックス共創館において、第618回沖縄大学土曜教養講座「『沖縄戦トラウマ』の理解と『語り合い』の可能性 ―家族に、地域に、受け継がれた痛みとともに生きる―」を開催しました。
本講座は、沖縄戦から80年以上が経過した現在もなお、家族や地域の中に残り続ける「戦争トラウマ」に焦点を当て、臨床・当事者・実践の視点から、「見えない傷」とどのように向き合い、ともに生きていくのかを考えることを目的として開催されました。
講座冒頭では、本講座を企画した本学教授の吉川麻衣子氏が趣旨説明を行い、「戦争の話を遠い過去の出来事としてではなく、自分自身や家族、地域の問題として考える場にしたい」と語りました。また、今後、沖縄戦体験者の子や孫世代を対象とした「語り合いの場」を継続的に実施していく構想についても紹介されました。
基調講演では、沖縄トラウマケアネットワーク代表で臨床心理士・公認心理師の大城由敬氏が、「心の傷とともに生きる―沖縄の文化が育てた、個人を超えたこころの成長―」をテーマに講演を行いました。大城氏は、トラウマを「過去の出来事」ではなく「今ここに影響を及ぼし続けるもの」として捉え、沖縄戦や戦後の歴史的経験が世代を越えて影響を与えている可能性について説明しました。さらに、苦しみを抱えながらも、人と人とのつながりの中で回復や成長が育まれていくことについて、「チムグリサ(他者の痛みを自分のことのように感じる感覚)」という沖縄独自の文化的感覚を手がかりに語られました。

続くリレートークでは、沖縄県議会議員の幸喜愛氏が、「沈黙を超えていのちをつなぐ―沖縄戦の世代間トラウマと共に生きる」をテーマに、自身の家族の体験や、家庭の中で十分に語られてこなかった戦争の記憶について語りました。幸喜氏は、戦争体験が直接語られなくても、沈黙や日常の空気感、家族関係の中に影響として残り続けることがあると述べ、「なぜ自分たちはこうした苦しさや生きづらさを抱えているのかを考えることが、家族や地域の歴史を見つめ直すことにつながる」と語りました。また、地域活動や平和活動に関わる中で感じてきた、世代を越えて語り継ぐことの重要性についても触れ、「語ることだけでなく、語れなかった背景に思いを寄せることも大切ではないか」と参加者に問いかけました。

続いて吉川氏は、「地域にひらかれた語り合いの場―ともに生きるために」と題し、2005年から継続してきた「沖縄戦を生きぬいた人びとの語り合いの場」の実践について報告しました。吉川氏は、語り合いの場は「無理に語ることを求める場ではない」とした上で、「語りたいと思った時に安心して語れること」「語らないことも尊重されること」が重要であると説明しました。また、長年の実践を通して、戦争体験そのものだけでなく、家族の中で受け継がれてきた感情や沈黙、生きづらさについて語り始める人が増えてきていることを紹介し、「個人の問題として閉じ込めるのではなく、地域社会の中で共に支え合いながら考えていくことが必要ではないか」と語りました。さらに、今後は体験者の子や孫世代を対象とした「語り合いの場」を継続的に実施していきたいとの展望も共有されました。


後半の「対話の時間」では、「痛みを抱えながら、ともに生きる社会とは」をテーマに、来場者も交えた意見交換が行われました。会場では、QRコードを活用した匿名での感想・コメント投稿も取り入れられ、参加者それぞれが自身の経験や思いを共有しながら、対話を深める時間となりました。
また、本講座では、テーマの性質上、参加者の心理的安全性にも配慮し、会場内に休憩スペースを設置するとともに、呼吸法やリラクゼーション法、フラッシュバックへの対処法をまとめた資料も配布されました。
なお、今後の「語り合いの場」に関する情報は、吉川氏の下記サイトより発信予定です。
「ちむぐりさの語り合い―沈黙を言葉に、記憶を未来へ。」
●参加者からの感想(一部抜粋)
| 1 | 体験談と実践報告、心的外傷後成長含め専門的な話も聞けて勉強になりました。沖縄戦をめぐる語り合いの場があることも知れて良かったです。沖縄戦の継承問題については、語り部の減少がある中、継承のあり方を問うニュースはよく見聞きします。戦争体験を通して心の傷をおった、世代を超えた物語について見聞きする機会は少ないのでとても勉強になりました。ありがとうございました。 | 40代 | 会社員 |
| 2 | 幸喜愛さんの講演は実体験をもとに沖縄の戦争トラウマが代々連鎖する事で脳が理解していても心は行動として動いてしまうという事がとても不可思議でもありでも現実の話しを聞いて沖縄戦がもたらした傷の深さにふれた貴重なお話しでした | 60代 | 無職 |
| 3 | 大城由敬先生の基調講演が大変よかった。学びが多く専門的な情報もあって収穫が多かった。悲しみを受容するだけでなくエビデンスに基づく希望や成長につながる実験結果を紹介してくれたことも納得材料になった。もっと調べたい気になった。 | 60代 | 他大学教職員 |
| 4 | 沖縄戦トラウマとPTGに関する研究者、戦争トラウマの影響を受けた当事者、語り合いの場の実践者、とそれぞれの視点での発表があったことが良かったです。最後の語り合いの時間が短くなったのは残念でした。参加者に断り入れた上で、多少延長しても良かったと思います。 | 30代 | 会社員 |
| 5 | 一つの話題について話すのではなく、30分という短い時間だけれど複数のトピックにわかれていろいろな話を聞くことができてよかった。最後まで飽きることなく、いい学びになった | 20代 | 大学生・大学院生 |
